転職後に「失敗した」と感じる割合——統計で見る実態
エンジニア転職を語る前に、転職市場全体のデータを把握しておく必要がある。
転職後悔に関するデータ(識学・転職会議レポートほか)
感じたことがある
と回答
「給与への不満」
「仕事量・残業時間」
重要なのは、転職後悔の最多原因が「入社前のイメージと入社後の実態のギャップ」であるという点だ。給与・仕事内容・職場環境いずれも、面接時の情報と実際が乖離していたケースが過半数を占める。エンジニア職は技術要件が複雑なため、このギャップが他職種より深刻になりやすい。
IT業界の平均離職率は約20%とされており、転職後1年以内に「ミスマッチだった」と感じる割合は未経験転職者で30〜40%程度と推定されている。経験者転職でも決して低くない数値だ。
失敗パターン①:業務内容のミスマッチ(求人票と現実の乖離)
「最新技術を使った自社開発」が「レガシーシステムの保守」だった
求人票には「モダンなスタックでの開発」と書いてあったのに、入社後に配属されたのはCOBOLで書かれた基幹システムの保守チーム。技術的な成長が見込めず、1年以内に再転職することになった。
このパターンが最も発生頻度が高い。求人票の「開発業務」という記載だけでは、実際に担当するのが新規開発なのか、既存システムの保守・改修なのかが判断できない。採用側は魅力的な面を強調する傾向があり、保守業務のウェイトは開示されにくい。
なぜ発生するか
- 求人票の記載が曖昧(「開発業務全般」など)
- 面接で配属予定ポジションの実務内容を深掘りしなかった
- 配属部署が入社直前まで確定していないケースも存在する
対策
面接で「私が最初に担当するプロジェクトの具体的な内容・使用技術スタック・チーム構成・新規開発と保守の比率を教えてください」と聞く。曖昧な回答しか得られない企業は入社後も情報共有が不十分な可能性が高い。
失敗パターン②:技術スタックの誇張に気づかなかった
「AWS使用」が実態は「EC2を1台立てているだけ」だった
「クラウドネイティブな環境での開発」という求人に惹かれて転職。ところが実際はオンプレサーバーが9割で、AWSはS3でファイルを置いているだけ。GitHubも CI/CDもなく、デプロイは手動スクリプトだった。
技術スタックに関する誇張は現在進行形で多発している。特に問題になるのが、求人票では先進的に見えるキーワード(Kubernetes、マイクロサービス、IaCなど)が、実態は社内の一部プロジェクトだけで使われているケース、あるいは「導入予定」の段階に過ぎないケースだ。
| 求人票の記載 | 実態(よくあるケース) | リスク |
|---|---|---|
| AWS / GCP 使用 | S3かEC2のみ。大半はオンプレ | 高 |
| マイクロサービス | 一部APIをREST化しただけ | 高 |
| CI/CD導入済み | Jenkinsが週1回動く程度 | 中 |
| アジャイル開発 | 週次スプリント会議があるだけ | 中 |
| Kubernetes運用 | 導入検討中、実運用はDocker Compose | 高 |
対策
「その技術スタックを使っている具体的なプロダクト名と、チーム内で日常的に使っているエンジニアの人数を教えてください」と聞く。数字を伴った回答が得られない場合は要注意。現場エンジニアとの面接設定を依頼するのも効果的だ。
失敗パターン③:年収だけを理由に転職した
年収は上がったが、3年後に市場価値が下がっていた
前職より年収150万円アップで転職成功のはずが、入社後は単調なCRUD開発の繰り返し。3年後、転職市場での市場価値が下がっていることに気づき、次の転職でまず年収が下がった。
「年収ダウン転職で長期的には上がる」というアドバイスも問題だが、「年収アップ転職で技術停滞」も同様に危険だ。エンジニアの市場価値は積み上げたスキルと実績で決まる。短期的な年収アップが、3〜5年単位で見ると損失になるケースは珍しくない。
エンジニア年収1000万の壁を越える5つのルートでも解説しているが、単純な年収アップ転職の繰り返しではなく、市場価値の積み上げを優先する戦略が中長期で有効だ。スキルの成長曲線が描けない転職は、年収差以上の機会損失をもたらす可能性がある。
対策
転職先での「1年後・3年後に自分がどのスキルを身につけられるか」をキャリアパスとして確認する。30代エンジニアのキャリアパス完全ガイド2026でも述べているが、スキルの成長曲線が描けない転職は年収よりも高くつく可能性がある。
失敗パターン④:SESから自社開発への転職で準備が足りなかった
SES3年の経験があっても、自社開発企業の書類選考を突破できなかった
3年間SESで様々なプロジェクトを経験したが、特定の技術スタックへの深い経験がなく、自社開発企業の書類選考で軒並み落選。ポートフォリオを作り直して半年後にようやく転職成功したが、時間をロスした。
SESエンジニアが自社開発企業に転職する際に失敗しやすいのは、「業務経験の幅」はあっても「特定技術の深度」が浅くなりがちという構造的な問題による。自社開発企業は即戦力を求めるため、使用する技術スタックでの深い実績を要求する。
またSES企業では「プロジェクト先の守秘義務」があり、具体的な業務内容をポートフォリオとして示せないという制約もある。
対策
転職活動の3〜6ヶ月前から、志望企業の技術スタック(Rails、Go、TypeScriptなど)を使ったオリジナルのポートフォリオを作成する。エンジニアのポートフォリオ作り方2026完全ガイドも参考に、GitHubに実装の過程が見えるリポジトリを準備しておくこと。
失敗パターン⑤:企業文化・チームとのミスマッチ
オンボーディングなし・質問しづらい雰囲気で精神的に追い詰められた
「風通しの良い職場」と聞いていたが、入社後はドキュメントも引き継ぎもなく放置。コードを読んで覚えるのが当然という文化で、質問すると「自分で調べてください」と言われる環境。3ヶ月で体調を崩した。
企業文化のミスマッチは、技術面のミスマッチより発覚が遅くなりやすい。面接段階では「チームワークを大切に」「成長を支援する環境」という言葉が並ぶため、入社前に実態を把握するのが難しい。特に注意すべきシグナル:
- エンジニアの平均在籍年数が1〜2年以下
- OpenWork・Glassdoorの評価が極端に低い、または口コミが少ない
- 面接官が現場エンジニアではなく人事のみ
- 技術的な質問に対して曖昧な回答しか得られない
- 選考が異常に速い(即日内定・翌日内定など)
対策
最終面接または内定後に「現場のエンジニアと1on1で話す機会を設けてほしい」と依頼する。この要望を拒否する企業は文化的に閉鎖的な可能性が高い。またOpenWork・Glassdoorで「退職理由」のカテゴリに同じキーワードが繰り返されていないか必ず確認すること。
失敗パターン⑥:スキルの過大評価(未経験・スクール卒に多い)
「未経験歓迎・研修あり」が形だけで、本番環境に即投入された
プログラミングスクール修了後に「未経験歓迎」のWeb開発会社に転職。研修2週間で本番環境に投入され、要件定義から設計まで求められた。基礎が追いつかず、戦力外になってしまった。
「未経験歓迎」「研修あり」の求人は実態として2タイプに分かれる:
- 本当に未経験育成型:メンター制度・段階的なタスク付与・定期1on1があり、3〜6ヶ月かけて基礎を固める
- 即戦力を期待している型:研修が形式的で、入社後すぐに業務水準のアウトプットを求める
スクール修了後の実力でこなせるのは①のみだ。②に転職してしまうと、技術的な遅れを取るだけでなく、エンジニアとしての自信を失うリスクがある。
対策
「直近1年で未経験・スクール卒として入社して3ヶ月以上在籍している社員の割合と、その人たちが最初に担当した業務を具体的に教えてください」と質問する。具体的な数字と事例で答えられない企業は要注意だ。
失敗パターン⑦:キャリアプランがなかった
「今の会社が嫌だから」だけで転職し、3年後に同じ問題に直面した
前職の人間関係が嫌で転職したが、3年後に転職先でも似たような問題に直面。あの転職は何だったのかと振り返ると、自分がエンジニアとして何を達成したいかを一度も考えていなかった。
「逃げ転職(プッシュ型転職)」は短期解決にはなっても、根本的なキャリア構築にはつながらないケースが多い。エンジニア転職活動の進め方でも触れているが、明確な目的を持った「引き抜き型転職(プル型転職)」——「あのスタートアップのプロダクト開発に関わりたい」「クラウドエンジニアとして専門性を深めたい」——は転職後の定着率と満足度が高い。
プッシュ型 vs プル型の違い:前者は「現状から逃れること」が目的、後者は「達成したいこと」が明確。面接官も転職理由を深掘りするため、プル型で語れると選考通過率も高くなる。
対策
転職活動を始める前に「3年後の自分がどんな技術・役割でどんな仕事をしているか」を1枚の紙に書き出す。それに照らして転職先を評価する基準を作ること。書けない場合は、キャリアコーチングで棚卸しを先に行うのが有効だ。
キャリアの軸を整理してから転職活動を始める
転職エージェントのキャリア相談は無料。自分の市場価値と転職軸を整理してから動き出すのが近道です
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転職失敗を防ぐ事前確認チェックリスト
7つのパターンをもとに、転職前・面接中に確認すべき項目をまとめた。内定承諾の前に全項目をクリアすることを目標にしてほしい。
📋 業務内容の確認(パターン①対策)
- ✓配属予定のプロジェクト名と具体的な業務内容を確認した
- ✓新規開発と保守・改修の比率を数字で確認した
- ✓使用技術スタックの詳細(バージョン含む)を確認した
- ✓実際に稼働中のプロダクト・サービスを使ってみた
📋 技術環境の実態確認(パターン②対策)
- ✓現場エンジニアとの面接またはカジュアル面談を設定した
- ✓CI/CDパイプラインの実態(ツール名・運用頻度)を確認した
- ✓コードレビューの文化・頻度を確認した
- ✓技術的負債の状況と改善への取り組みを確認した
📋 労働環境・文化の確認(パターン⑤対策)
- ✓エンジニア部署の平均残業時間(繁忙期・閑散期別)を確認した
- ✓OpenWork / Glassdoorのレビューで「退職理由」を確認した
- ✓リモートワーク・出社のポリシーを確認した(変更予定含む)
- ✓エンジニアの平均在籍年数を確認した
📋 キャリア・成長の確認(パターン③⑦対策)
- ✓1年後・3年後の自分のキャリアパスをこの会社で描けるか確認した
- ✓エンジニアの評価制度・昇給の仕組みを確認した
- ✓技術学習の支援制度(書籍代・勉強会参加費など)を確認した
- ✓実際に内部昇進したエンジニアの事例を確認した
それでも転職に失敗した場合の回復戦略
どれだけ準備しても、転職失敗が完全にゼロになるわけではない。問題は失敗した後にどう動くかだ。
3ヶ月は様子を見る(体を壊すなら即動く)
入社直後は誰でも慣れない環境でパフォーマンスが落ちる。「こんなはずじゃなかった」という感覚が続くなら、3ヶ月後に改めて評価し直す。ただし、精神的・身体的に健康を損ねるような職場からは即座に離れる判断が正しい。
現職でできることを最大化してから次を探す
短期間での再転職は職歴にマイナスの印象を与えることがある。できる限り現職で何かを「達成した」状態にしてから次を探す。たとえ小さくても「○○機能を実装した」「コードレビューの仕組みを整えた」などの実績を作ること。
前回の転職活動の何が甘かったかを分析する
7つの失敗パターンのどれに当てはまったかを特定する。同じパターンで再失敗するケースは多い。特に「なぜその企業を選んだか」の判断軸を見直すことが重要だ。
転職エージェントを変える・追加する
前回の転職で使ったエージェントとの相性も確認する。エンジニア転職エージェントおすすめ8選【2026年版】でも紹介しているが、エンジニア専門の技術理解があるエージェントを使うことでミスマッチを事前に防ぎやすくなる。
スキルの棚卸しと補強をしてから動く
転職失敗がスキルミスマッチに起因するなら、次の転職前にポートフォリオの強化やGitHubへのアウトプットを通じて実力を可視化することが先決だ。30代エンジニアのAI転職術2026で紹介しているAIツールを活用して書類・面接の準備を強化するのも有効だ。
短期間での転職繰り返しへの注意:在籍期間が1年未満のキャリアが複数続くと、「定着しないエンジニア」と見なされ選考通過率が下がる。やむを得ない場合でも、面接で「なぜ短期間で退職したか」を整理して語れるようにしておく必要がある。
まとめ:エンジニア転職失敗の共通点と対策
エンジニア転職で失敗する7パターンまとめ
- 1業務内容のミスマッチ → 配属予定プロジェクトの実態を面接で確認
- 2技術スタックの誇張 → 現場エンジニアとの面接で使用実態を数字で確認
- 3年収だけで判断 → 3〜5年後の市場価値とスキル成長で評価する
- 4SES→自社開発の準備不足 → 3〜6ヶ月前からポートフォリオを作成する
- 5企業文化のミスマッチ → 現場エンジニアとの1on1設定・口コミ確認
- 6スキルの過大評価 → 未経験入社者の実態を具体的な数値で確認
- 7キャリアプランの欠如 → 3年後のビジョンを先に固めてから転職軸を決める
エンジニア転職で失敗する最大の共通点は「事前情報の不足」だ。求人票とカジュアル面談の情報だけで判断し、面接での深掘り質問を怠るケースがほとんどを占める。7パターンを知った上でチェックリストを使った体系的な情報収集を実施することで、転職失敗リスクは大幅に下げられる。
転職は「今の会社が嫌だから逃げる」ではなく、「自分がこのフェーズで達成したいことに最適な環境を選ぶ」という発想で取り組むことが、長期的なキャリア設計の観点からも正しい。