「SIerからWeb系」という検索の裏側にいるのは、業界研究をしている段階の人ではない。すでに転職を意識していて、最後の一押しになる材料を探している段階の人だ。SNS上でも「SESから自社開発に移りたい」という相談や、未経験からWeb系自社開発企業のエンジニアになった事例への反応が一定数観測されている。
ただし、その前提となっている「SIerからWeb系に転職すれば年収が上がる」という理解は、データで見ると必ずしも正しくない。SIerの最上位層の年収は、多くのWeb系企業の平均を上回っている。問題は「SIerかWeb系か」というラベルではなく、今どの商流にいて、そこからどう抜け出すかにある。
この記事では、有価証券報告書ベースの年収データで「年収は本当に上がるのか」を検証したうえで、「SIer歓迎」の求人でも書類選考に落ちる理由と、転職前にやるべき実務経験の棚卸し手順を、実際の転職記録も交えて整理する。
- SIer最上位層(野村総合研究所・SRAホールディングス・電通総研など)の平均年収は約1,000万〜1,320万円で、多くのWeb系企業の平均を上回る。年収は「SIerかWeb系か」ではなく、元請けかどうかという商流で決まる部分が大きい
- SES(客先常駐)の平均年収は約350万〜460万円。同じ「SIer/SES」という括りの中に、SIer・Web系という業界間の差より大きな年収差が存在する
- 「SIer歓迎」の求人でも書類選考に落ちるのは、実務経験を伝える言葉がWeb系の評価軸に翻訳されていないことが主因。ポートフォリオの有無で通過率が変わったという転職記録もある
- 転職前にやるべきは、担当工程の言語化・技術スタックのギャップ特定・動くコードの提示という3ステップの実務経験の棚卸し
- SES・客先常駐からの転職では、現場が変わり続ける中で実務経験をどう証明するかが追加の論点になる
SECTION 01SIerからWeb系で「年収は上がる」と言い切れるのか
まず、転職の動機として最も語られやすい「年収」を数字で確認する。SIer各社の平均年収は有価証券報告書に開示されており、EDINET経由で誰でも確認できる。上位層を見ると、次のような水準になっている。
| 区分 | 年収の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| SIer最上位層野村総合研究所・SRAホールディングス・電通総研・三菱総合研究所・伊藤忠テクノソリューションズ(上位5社平均) | 約1,177万円 | 各社有価証券報告書(EDINET) |
| システムエンジニア全体の平均 | 約514万〜574万円 | 求人ボックス 給料ナビ/厚生労働省調べ |
| SES(客先常駐)平均20代 約339万円・30代 約408万円 | 約350万〜460万円 | テックゴー調べ |
※ SIer最上位層はコンサルティング・シンクタンク色の強い企業が中心で、SIer業界全体の平均ではない。売上高ランキング上位企業とは必ずしも一致しない点に注意。
この3行を並べるだけで、ひとつのことがわかる。「SIer」という括りの中に、SIerとWeb系という業界間の年収差より大きな幅がすでに存在しているということだ。最上位のSIerと一般的なSESの間には700万円以上の開きがあり、これは「Web系に転職すれば埋まる」種類の差ではない。
したがって、転職活動を始める前に自分に問うべきなのは「SIerからWeb系に行けば年収は上がるか」ではなく、「今の自分は、今の会社の中で、どのくらい商流の下流に位置しているか」だ。元請けに近い立場で上流工程を担当しているなら、Web系への転職はキャリアの選択肢を広げる意味はあっても、年収面では横ばい、あるいは一時的に下がるケースも十分にありうる。逆に、多重下請け構造の深い場所にいるなら、Web系に限らず「商流を上げる」転職そのものが年収改善に直結しやすい。
SECTION 02「SIerはやめとけ」は本当か|残業データで見る、辞めるべきケースと辞めなくていいケース
「SIerはやめとけ」という言説は検索結果にも一定数存在するが、その根拠として語られる「残業が多い」という主張は、データで見ると一様ではない。
| 区分 | 残業時間の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 全産業平均 | 月 約9.8時間 | 厚生労働省「毎月勤労統計調査」2025年分 |
| 情報通信業平均 | 月 約15.8時間 | 同上 |
| ITエンジニア平均年間221時間換算 | 月 約18.4時間 | JISA「情報サービス産業基本統計調査」2024年版 |
| SES企業平均 | 月 約9時間 | JISA調査(2022年版) |
※ 業界内のばらつきが大きく、受託開発SIerとSaaS系企業では月10〜15時間の差が開くこともある。一部のITコンサル系企業では月50時間を超える水準も観測されている。
意外に思われるかもしれないが、SES企業単体の平均残業時間はむしろ低めに出ている。「SIerはやめとけ」の実態は、残業時間そのものよりも、配属先を自分で選べない・仕事の裁量が小さい・特定案件の技術に経験が偏るといった、時間では測れない要素にあることが多い。残業が少なくても、案件と関わらないヘルプデスク業務や単純作業に長期間張り付いている場合、次の転職で語れる実務経験が積み上がらないという問題の方が深刻だ。
- 今の会社・部署の中でまだ上流工程に挑戦していない
- 残業や待遇への不満が中心で、業務内容そのものは嫌いではない
- 異動願いや社内公募など、動いていない選択肢が残っている
- 直近1〜2年で明確なスキルの伸びが見込めるプロジェクトにいる
- 1年以上、保守・運用や単純作業から抜け出せていない
- 配属先の選定権が自分になく、案件が変わるたびに技術が分散する
- 要件定義〜リリースまでの一連の工程に関与した経験がほぼない
- 会社の商流上の立ち位置(多重下請けの深さ)を変える手段が社内にない
SECTION 03「SIer歓迎」なのになぜ書類で落ちるのか|実務経験の翻訳問題
SIer・SES出身者の転職活動でよく報告されるのが、「求人票には『SIer歓迎』と書いてあったのに、応募したらほとんど通らなかった」という現象だ。実際にSIerからWeb系企業に転職した人の記録を見ると、次のような数字が公開されている。
この記録が示すのは、SIerでの実務経験が「価値がない」わけではなく、そのままの言葉では伝わらないということだ。SIerの職務経歴書によくある表現は、進捗管理・仕様調整・テスト工程といった、工程名を並べた記述になりやすい。一方でWeb系企業の採用担当者が評価するのは、その工程で「何を動かし、何を改善したか」という成果ベースの言葉だ。同じ経験でも、書き方次第で評価が変わる。
実際に職務経歴書を書き換える際のイメージは、次のようになる。
SECTION 04転職前にやるべき実務経験の棚卸し(3ステップ)
職務経歴書の言葉を翻訳する前に、翻訳する材料そのものを揃える必要がある。手順は次の3つだ。
SECTION 05SES・客先常駐から抜け出す場合に追加で見るべきこと
SESで働いている場合、SIerの正社員と比べて追加で検討すべき論点がある。契約形態上、常駐先が変わるたびに担当業務や評価者が変わり、「一貫したキャリア」として語りにくくなる点だ。
対策としては、現場ごとの実務内容をSTEP1の棚卸しシートに時系列で残しておき、現場が変わるたびに更新することが有効だ。準委任契約か請負契約かによって、成果物に対する裁量の説明の仕方も変わってくるため、契約形態も合わせてメモしておくとよい。また、複数の現場を経験している場合は、職務経歴書上で現場ごとに区切るのではなく、「一貫して担ってきた役割」で束ねて書き直すと、採用担当者にとって読みやすくなる。
実際に転職を決めた後の退職交渉についても、SESは客先常駐先との調整が絡むため、通常の正社員以上に手続きが複雑になりやすい。退職の切り出し方や引き継ぎの進め方はエンジニアの退職交渉の進め方をまとめた記事で具体的な手順を扱っているので、内定後に確認しておくと動きやすい。
SECTION 06転職エージェントの選び方|SIer・SES出身者が使うべき窓口
SIer・SES出身者の転職では、Web系企業の求人だけでなく、上流工程への転職やユーザー系企業への転職も選択肢に入れて相談できるエージェントを選ぶと、比較検討の幅が広がる。総合満足度の観点ではレバテックキャリアの評判を運営会社データで検証した記事で扱っているとおり、IT・Web業界特化型は上流工程の求人も一定数保有している。大手SIerの求人を厚く持つエージェントとしてはGeeklyの評判を検証した記事も参考になる。マイナビITエージェントについては現時点で当サイトに評判記事がないため、マイナビITエージェントの評判は今後掲載予定だ。
いずれか1社に絞らず、複数登録して求人の重なり具合とコンサルタントとの相性を比較するのが実務的だ。「SIer歓迎」の表記だけを頼りに応募先を決めるのではなく、担当コンサルタントに実際の書類通過実績を確認してから応募先を絞り込むと、SECTION03で見た「書類で落ちまくる」状態を避けやすい。
よくある質問
SIerから転職するなら何年目がいいですか?
SIerから転職するにはどうしたらいいですか?
Web系に強い転職エージェントはどこですか?
IT系で1番稼げる職業は?
SES(客先常駐)からいきなり自社開発企業への転職は難しいですか?
参考・出典
- Geekly「SIerランキング!大手や年収・売上高上位企業【2026最新・総合版】」(有価証券報告書・EDINETベースの上位SIer平均年収データ)
https://www.geekly.co.jp/column/cat-technology/sier-company_ranking/ - テックゴー「SESの平均年収はいくら?年齢・スキル別の相場と高収入を目指すコツ」(SES平均年収・年代別データ)
https://tech-go.jp/it-engineer/ses/salary - 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報」(産業別の所定外労働時間データ)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/25cp/25cp.html - 情報サービス産業協会(JISA)「2024年版 情報サービス産業基本統計調査」(ITエンジニアの平均残業時間データ)
https://www.jisa.or.jp/Portals/0/report/basic2024report.pdf - note「SIerからWeb系に転職した俺が全部話す|準備と本音」(書類選考の通過数・ポートフォリオ効果の実例)
https://note.com/sota_career/n/n23f035ae8405 - マイナビ転職エージェント「ITエンジニアの職種別年収ランキング」(職種別の平均年収データ)
https://mynavi-agent.jp/knowledge/it/284.html