エンジニアリングマネージャーは「やめとけ」?後悔する7パターンと、打診を受けたら確認すべき5つの条件【2026年9月版】
「EMやってみない?」と打診された。SNSでは「EMはやめとけ」「なって後悔した」という声が目に付く。一方で、断ったら評価や年収に響くのでは、という不安もある。この記事は、そういう状態の中堅エンジニア向けです。
先に結論を書きます。「やめとけ」が当たるケースの多くは、EMという職種そのものではなく「その会社のEMポジションの設計」と「引き受ける動機」のミスマッチから来ています。設計の欠陥は打診の段階で質問すれば見抜けるものが多く、動機のミスマッチは自己チェックで事前に分かります。
- 管理職志向は下がり続けている。「今の会社で管理職になりたい」は2026年調査で15.7%(情報・通信職は15.5%)
- 上場企業の課長の99.5%がプレイヤー業務を兼務し、業務の約半分(加重平均50.1%)がプレイヤーの仕事
- 「残業代を含めた非管理職より給与が高い」と答えた課長は37.6%。2割弱は「低い」と回答している
- 後悔は7パターンに分けられ、うち4つは会社側の設計の問題。打診時に5つの質問で確認できる
- もう後悔しているなら、出口は「立て直す」「ICに戻る」「他社で選び直す」の3つ。どれも珍しい選択ではない
なお、EMの仕事内容や評価軸そのものはエンジニアリングマネージャーの役割とテックリード・PMとの違いで、スペシャリストとマネジメントの一般的な選び方はスペシャリストとマネジメントどっちを選ぶかの5つの判定軸で整理しています。この記事は「後悔」と「やめとけ」の中身を分解することに絞ります。
01数字で見る「EMやめとけ」の背景
「やめとけ」という声が増えているのは、個人の愚痴が目立っているだけではありません。複数の調査で、管理職というポジションそのものの魅力が落ちていることが確認できます。
出典: パーソル総合研究所
出典: 産業能率大学
出典: Gallup
パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」によると、「現在の会社で管理職になりたい」と答えた人は2026年に15.7%。2025年の16.7%からさらに下がりました。職種別では情報・通信職が15.5%で、全体とほぼ同じ水準です。エンジニアだけが特別にマネジメントを嫌っているわけではなく、働く人全体で管理職の人気が落ちている、と読むのが正確です。
海外でも傾向は同じです。Gallupの「State of the Global Workplace 2026」では、マネージャーのエンゲージメントが2024年の27%から2025年の22%へ5ポイント低下しました。同レポートは、リーダー層は一般社員(IC)に比べて孤独を感じる割合が10ポイント、ストレスが7ポイント高いとも報告しています。
日本の現場の実態をよく表しているのが、産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」です。第6回(2021年)では、プレイヤーとしての役割が「まったくない」課長はわずか0.5%。業務に占めるプレイヤー業務の割合は加重平均で50.1%でした。つまり日本の管理職は「マネジメント専任」ではなく、ほぼ全員が「半分はプレイヤー」です。EMの後悔の多くはこの構造から生まれています。
02EMになって後悔する7パターン
EMからICに戻った人のブログや「EMがつらい」という記事を横断して読むと、後悔の理由はだいたい7つのパターンに収まります。大事なのは、それぞれが「本人の適性の問題」なのか「会社側の設計の問題」なのかを分けて考えることです。設計の問題なら、あなたが向いていないのではなく、ポジションの作りが悪いだけです。
いちばん多い後悔です。レビューや設計相談には関わっても、自分で書く時間はほぼなくなる。半年もすると新しいライブラリやツールの話についていけない感覚が出てきます。
ただし、これは「技術に関わりたい」という動機の問題でもあります。手を動かすこと自体が一番の報酬だった人にとっては、構造的に避けられない喪失です。
前述の通り、日本の課長のほぼ全員がプレイヤーを兼務しています。EMでも「チームの主力として開発しながら1on1・評価・採用もやる」配置は珍しくありません。産業能率大学の同調査では、プレイヤー業務がマネジメントに支障をきたしていると答えた課長が約半数にのぼりました。
結果として、開発は会議で細切れになり、マネジメントは後回しになる。どちらの成果も中途半端に見えるのがこのパターンです。
労働基準法上の「管理監督者」扱いになると、時間外・休日の割増賃金が出なくなります。役職手当が付いても、それまでの残業代と相殺されてほとんど増えない、場合によっては下がる、という後悔です。具体的な数字は次の章の試算で見ます。
「メンバーの成長と成果に責任を持て」と言われる一方で、評価の最終決定は部長、採用枠は人事、ツールの予算は別部署。部下からは「上に伝えておいてください」と頼まれ、上からは「現場をうまくまとめて」と言われる。権限のない責任は、板挟みのストレスをいちばん大きくします。
厚生労働省のパンフレットでも、「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は、管理監督者とは言えないと明記されています。権限がないのに残業代もない状態は、法的にもグレーな可能性があります。
ICの頃は、PRがマージされた、障害を直した、という小さな達成が毎日ありました。EMの成果は「半年後にチームが自走している」「1年後に辞める人が減った」といった遅くて曖昧なものです。フィードバックの周期が数日から数か月に伸びることに耐えられず、「何もしていない気がする」と感じる人は多いです。
メンバー間の衝突、メンタル不調、ローパフォーマーへの対応、退職の引き止め。どれもコードのように「正解」がありません。しかも同じ悩みを話せる同僚がチーム内にいなくなります。Gallupの調査でリーダーの孤独感がICより10ポイント高いのは、この構造の表れです。
人の問題に向き合うこと自体の向き不向きもありますが、EM同士が相談できる場(EM定例やメンター)があるかどうかで消耗の度合いはかなり変わります。
「一度管理職になったら降りるのは降格扱い」という会社では、合わないと気づいても戻れません。後悔そのものより「戻れない」ことが、「やめとけ」という強い言葉を生んでいる面があります。逆に、EMとICの等級が並行していて行き来できる会社なら、試してみて合わなければ戻るという選択が現実的になります。
7つのうち、02・03・04・07の4つは会社側の設計の問題です。つまり「EMはやめとけ」の半分以上は、正確には「このEMポジションはやめとけ」です。ここを混同すると、本当は向いているのに断ってしまう、または向いていないのに設計の良さだけで引き受けてしまう、という判断ミスが起きます。
03【試算】役職手当と消える残業代、年収は本当に上がるか
パターン03の「年収が思ったほど上がらない」を、公的統計で確かめます。厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」では、雇用期間の定めのない一般労働者の役職別の賃金(所定内給与、月額)は次の通りです。
| 役職 | 賃金(月額・男女計) | 非役職者=100 | 平均年齢 | 平均勤続年数 |
|---|---|---|---|---|
| 部長級 | 635.8千円 | 204.8 | 53.1歳 | 22.6年 |
| 課長級 | 529.2千円 | 170.4 | 49.5歳 | 20.9年 |
| 係長級 | 399.2千円 | 128.6 | 45.4歳 | 17.5年 |
| 非役職者 | 310.5千円 | 100.0 | 41.8歳 | 10.8年 |
出典: 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第8表。所定内給与のため、残業代(超過労働給与)は含まない。全産業・全職種の平均。
数字だけ見ると、課長級は係長級より月13万円高く、管理職になれば大きく上がるように見えます。ただしこの賃金は残業代を含まない所定内給与です。係長級(多くの会社で非管理職)には、この上に残業代が乗ります。一方、管理監督者になった課長級には時間外の割増賃金が付きません。
そこで、係長級の所定内給与399.2千円を月160時間で割った時間単価(約2,495円)に、法定の割増率25%を掛けて残業代を足してみます。
月30時間の残業で差は約3.6万円まで縮まり、月45時間では係長級(残業代込み)が課長級を上回ります。統計上の平均どうしの比較なので、個別の会社では当然ずれます。それでも「残業が多いチームのリードがEMになると、年収はほぼ横ばい」という構図は珍しくないと分かります。
実際、産業能率大学の第7回調査(2023年、上場企業の課長809人)で「課長の給与は、残業代を加算した非管理職よりも高い水準にある」に肯定的に答えた課長は37.6%にとどまり、2割弱は「残業代を加算した非管理職より低い」という結果でした。
管理監督者は労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外されますが、深夜(22時〜翌5時)の割増賃金は支払い対象です。また2019年4月の労働安全衛生法改正で、管理監督者も含めて会社が労働時間の状況を把握する義務があります。厚生労働省は「管理監督者であっても何時間働いても構わないということではない」と明記しています。「管理職だから青天井」という運用になっていないかは確認しておきましょう。
もちろん、IT企業ではEMとICで等級と報酬テーブルを分けている会社も多く、EMになっても残業代の扱いが変わらない、あるいは役職手当ではなく等級で年収が決まる会社もあります。だからこそ、打診時の質問で「自分の会社ではどうなるか」を確かめる必要があります。EMの転職市場での年収相場はエンジニアリングマネージャー転職ガイドでまとめています。
04「やめとけ」が当たる人・外れる人
次は、パターン01・05・06の「適性・動機」側です。ここは会社に聞いても分からないので、自分で判定するしかありません。判断材料は「やりたいか」という気持ちより、過去の行動のほうが当てになります。
「やめとけ」が当たりやすい人
- 引き受ける理由が「年収」「断ると評価が下がりそう」だけ
- 自分で手を動かして問題を解いたときに一番充実を感じる
- 他人のコードを直すより自分で書き直すほうが早いと思ってしまう
- 対立や気まずい会話をなるべく避けてきた
- 数か月単位の曖昧な成果では達成感を得られない
「やめとけ」が外れやすい人
- メンバーのつまずきに気づいて、頼まれる前に声をかけていた
- チームの開発プロセスや仕組みの改善に自分から手を出していた
- 後輩が伸びたときに自分のことのように嬉しかった
- 技術的な判断を、事業やスケジュールの制約と結びつけて説明できる
- 「コードを書けない期間があってもいい」と本気で思える
左側に3つ以上当てはまるなら、会社の設計がどれだけ良くても消耗する可能性が高いです。その場合、より技術寄りのリーダーシップとしてテックリードを目指す道のほうが合っているかもしれません。
IC向けの等級(スタッフエンジニア、プリンシパルなど)がある会社なら、断ってもキャリアは止まりません。IC等級がなく「上がるには管理職しかない」会社の場合は、断ることより、その会社にいること自体が長期的なリスクになります。どちらの会社かを先に確認しましょう。
05打診を受けたら確認すべき5つの条件
パターン02・03・04・07の「ポジション設計」の欠陥は、引き受ける前の質問で見抜けます。打診してきた上司に、次の5つを聞いてください。答えが曖昧なら、それ自体が判断材料になります。
- 今の自分の開発タスクは、誰にいつ渡すことになりますか? プレイングマネージャー化(パターン02)の確認。IC業務を何割残すのか、チームの人数と開発量に対して現実的かを見ます。 危険信号: 「今まで通り手も動かしつつ」「落ち着いたら考えよう」
- 給与はどう変わりますか?残業代の扱いと、役職手当・等級の変化を教えてください 年収横ばい問題(パターン03)の確認。直近12か月の残業代の月平均と、新しい役職手当・等級の給与レンジを並べて比較します。 危険信号: 役職手当が自分の残業代の月平均より少ない、金額を示してもらえない
- メンバーの評価・採用・予算について、自分が決められる範囲はどこまでですか? 権限のない責任(パターン04)の確認。評価は一次評価者なのか最終決定者なのか、採用面接に参加して合否に意見できるのか。 危険信号: 評価には関与しないのに「チームの成果に責任を持って」と言われる
- 合わなかったとき、ICに戻る道はありますか?前例はありますか? 片道切符(パターン07)の確認。EMとICの等級が並行しているか、戻ったときに給与が下がるのか。 危険信号: 「戻るのは想定していない」「前例がない」
- 最初の半年で、何ができていれば成功と評価されますか? 成果の見えにくさ(パターン05)への対策。評価基準を先に言語化してもらうと、「何もしていない気がする」状態を避けられます。 危険信号: 「チームをうまく回してくれれば」のように基準が抽象的なまま
この5つは、転職でEMポジションに応募する場合もそのまま使えます。オファー面談で聞けば、求人票では分からない設計の欠陥が見えます。複数のオファーを比べるときの考え方は複数内定を「3層」で比較する方法を参考にしてください。
06もう後悔しているときの3つの出口
すでにEMになっていて「やっぱり後悔している」という人向けです。出口は大きく3つあります。どれも失敗ではなく、キャリアの選択肢として普通に取られているものです。
出口1: 今のポジションのまま立て直す
後悔の原因がポジション設計(プレイング比率、権限、評価基準)で、マネジメントの仕事そのものは嫌いではない場合。
- 上司に、前章の5つの質問をあらためてぶつけ、IC業務の移管や権限の範囲を再交渉する
- 自分の時間の使い方を2週間記録し、「会議・1on1・レビュー・開発・調整」の比率を見える化して交渉材料にする
- 社内外のEMコミュニティや書籍(『エンジニアリングマネージャーのしごと』など)で、孤独を一人で抱え込まない
出口2: ICに戻る
後悔の原因が適性・動機(手を動かしたい、人の問題がつらい)の場合。社内に戻る制度があるなら最もコストが低い選択です。
- EM経験は無駄にならない。採用・評価・事業側との調整を経験したICは、シニア以上の等級で評価されやすい
- 技術の鮮度が落ちすぎる前に戻るほうが楽。EM期間中もレビューや設計には関わり続けておく
- 戻る道がどう設計されているかは、マネジメントとスペシャリストを行き来する考え方も参照
出口3: 他社で選び直す
社内に戻る道がない、またはEM自体は続けたいが今の会社の設計が悪い場合。転職市場ではEM経験もIC経験もどちらも値が付きます。
- EMを続けるなら、前章の5つの質問をオファー面談で確認し、同じ設計の会社を避ける
- ICに戻るなら、「EMを経験したうえで技術を選んだ」と一貫したストーリーにすると面接で評価されやすい
- 年収の扱い(下がる場合の交渉)はエージェント経由の年収交渉で整理している
EM経験を活かした次のポジションを探すなら
EMを続けるにしてもICに戻るにしても、自分の経験が他社でどう評価されるかを知っておくと判断が早くなります。ハイクラス層に強いIT特化エージェントの無料面談で、市場での値付けを確認できます。
07よくある質問
プレイングマネージャーになってはいけない理由は?
マネージャーに向かない人は?
エンジニアが管理職を「つまらない」と感じるのはなぜですか?
ダメな管理者の特徴は?
EMになって後悔したら、ICに戻るのは不利になりますか?
08まとめ
- 「EMはやめとけ」の多くは、EMという職種ではなくその会社のEMポジションの設計と引き受ける動機のミスマッチから来ている
- 後悔の7パターンのうち4つ(プレイング化・残業代消失・権限なし・片道切符)は設計の問題で、打診時の5つの質問で確認できる
- 役職別賃金の公的統計で試算すると、残業の多い非管理職がEMになっても年収はほぼ横ばいになり得る。役職手当と自分の残業代の月平均は必ず並べる
- 適性・動機の側は、「やりたいか」より過去半年の行動で判定する
- もう後悔しているなら、原因に応じて「立て直す」「ICに戻る」「他社で選び直す」を選ぶ。どれも珍しい選択ではない
打診への返事を急ぐ必要はありません。5つの質問への回答をもらってから決めても、失礼にはなりません。
参考・出典
- パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査:今後どのようなキャリアを考えていますか?」 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/pgstop/pgs/values05/
- Gallup "State of the Global Workplace" https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace.aspx
- 産業能率大学「第6回 上場企業の課長に関する実態調査」 https://www.sanno.ac.jp/admin/research/kachou2021.html
- 産業能率大学 総合研究所「第7回 上場企業の課長に関する実態調査」 https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/research-report/2023/10/25-01.html
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf