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SES・客先常駐の転職サインは「還元率・工程・指揮命令」で判定する|12項目の判定表と、商流から逆算する転職先の選び方【2026年10月版】

· 著者: 福朗(フリーランスAIエンジニア)
SES・客先常駐から転職すべきサインを12項目で判定する記事のアイキャッチ

「SES やめとけ」という話は検索すればいくらでも出てきます。ただ、SESそのものが悪いわけではありません。同じSESでも、単価を開示して給与に反映する会社と、商流の3次請けで単価も教えない会社では、エンジニアの手に残るお金も、身につく経験もまったく違います。

この記事では「なんとなくしんどい」を、お金(還元率)・成長(工程と裁量)・扱い(法令と会社の関与)の3軸、12項目に分けて判定します。そのうえで、赤信号が出たらすぐ動く、黄信号なら準備してから動く、という判断の基準を示します。最後に、今いる商流の位置から逆算した転職先の選び方をまとめます。

この記事の結論
  • 赤信号(1つでも当てはまれば転職を前提に動く): 常駐先からの直接指示・勤怠管理(偽装請負の疑い)、経歴書の水増しの指示、待機中の一方的な減給
  • 黄信号(3つ以上で6か月以内に動く準備): 単価を開示しない、同じ工程に2年以上固定、自社と月1回も話さない、など
  • 還元率は「社保込みか・社保抜きか」で10ポイント近く変わる。求人の「還元率○%」は、自分で計算し直して比べる
  • 転職先は「商流のどこに移るか」で選ぶ。上流(元請・自社開発・事業会社)に行くほど、職務経歴書に「自分で決めたこと」を書けるかが問われる

SECTION 01SESがしんどくなる理由は「商流」と「指揮命令」の2つ

サインを見る前に、SES(準委任契約での客先常駐)でしんどさが生まれる仕組みを押さえておきます。仕組みがわかると、サインの重さを判断しやすくなります。

商流が深いほど、単価から抜かれる段数が増える

公正取引委員会は2022年に、資本金3億円以下のソフトウェア業2万1,000社を対象とした実態調査を公表しています。その中で「商流上は形式的に関与するものの、実際には何ら業務を行わずに利益を上げている『中抜き』事業者」の存在を感じたことがあるかを尋ねたところ、全体の25.9%、最終下請では33.5%が「感じたことがある」と回答しました。最終下請の事業者のおよそ3社に1社です。

同じ報告書には、事業者の声として「エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがあり、間に入っている企業は何もしない」という記述もあります。エンド企業が払う単価は同じでも、間に入る会社が1社増えるたびにマージンが引かれます。何次請けにいるかで、給与の上限がほぼ決まってしまいます。

エンド企業から元請・二次請・三次請を経てエンジニアに単価が流れ、各段でマージンが引かれる商流の図
商流の段数とエンジニアに残る金額の関係(イメージ。マージン率は会社によって異なる)

「誰の指示で働くか」は、法律で決まっている

SESは準委任契約で、請負とも派遣とも違います。厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)では、受託した会社が自分の社員に対して業務の進め方の指示、評価、始業・終業時刻や残業の管理、配置の決定を自ら行うことが求められています。これらを常駐先が直接やっていれば、契約の名前がSESでも実態は労働者派遣とみなされます。いわゆる「偽装請負」です。厚労省は2021年の事務連絡で、この考え方がシステム開発にも当てはまることを改めて示しました。

つまり客先常駐は、「常駐先の中で働きながら、指示と評価は自社から受ける」という形を前提にした働き方です。この前提が崩れると、エンジニアは法的にも評価のうえでも、宙に浮いた立場になります。

SECTION 02転職サイン判定表|12項目を3つの軸でチェック

各項目には赤と黄の重みを付けています。赤は法令や雇用の基本に関わるもので、個人の工夫ではまず改善しません。黄は、会社への相談や現場の変更で改善できる余地があるものです。

SES客先常駐の転職サイン12項目を、お金・成長・扱いの3軸と赤黄の重みで並べた判定表
12項目の全体像。ひとつずつの判定方法は下で解説します

軸A:お金(単価と還元)

A-1自分の単価を聞いても教えてもらえない黄

単価を開示する義務は法律上ありません。ただ、開示しない会社では還元率を自分で検証できず、昇給の交渉材料も持てません。

確認方法: 評価面談で「今の現場の契約単価と、自分の給与への反映ルール」を聞く。はぐらかされたら黄。

A-2単価が上がっても給与が連動しない黄

現場で評価され、契約更新時に単価が上がったのに、昇給は全社一律の数千円。この場合、上がった単価の大部分は会社に残っています。

確認方法: 直近2回の単価改定と、同じ時期の昇給額を並べてみる。

A-3社保込みで計算した還元率が60%を下回る黄

次のセクションの式で計算します。60%は業界の公式な基準ではなく、この記事での目安です。営業費、教育費、待機時の給与まで含めて会社が健全に回る水準を考えると、60%を大きく割り込んでいる場合、そのぶんの説明が会社からあってよいはずです。

A-4評価基準が「現場の評判」しかない黄

自社の評価者があなたの仕事を見ていないので、常駐先の担当者の印象がそのまま評価になります。昇給の根拠を言葉で説明されたことがなければ、この項目に当てはまります。

軸B:成長(工程・技術・裁量)

B-1同じ現場・同じ工程に2年以上固定され、異動希望が通らない黄

同じ現場が長いこと自体は悪くありません。設計に上がった、レビューを任されたなど、役割が広がっていれば問題ありません。問題なのは「工程が変わらないまま年数だけが増える」ことです。テストや運用監視だけで3年経つと、次の転職で「何ができる人か」を説明しにくくなります。

B-2直近1年、「自分の判断で決めたこと」が職務経歴書に1行も書けない黄

中途採用で見られるのは、作業量よりも判断の中身です。たとえば「〇〇の理由でこのライブラリを選んだ」「障害の原因をこう切り分けた」といった内容です。指示どおりの作業しか任されない現場では、この材料がたまりません。

B-3現場の技術スタックが求人市場で減っている黄

サポートが終わったバージョンの保守や、独自フレームワークだけを触っている状態です。転職サイトで、そのスタックの求人数と年収の上限を検索し、モダンなスタックと比べてみてください。

B-4案件を選べず「次はここ」と通知されるだけ黄

案件を選べる会社は、2〜3件の候補を示し、単価と業務内容を見て本人が選べるようにしています。営業の都合だけで決まる会社では、キャリアの方向を自分で決められません。

軸C:扱い(法令と会社の関与)

C-1常駐先の社員から直接作業指示を受け、勤怠や残業も常駐先が管理している赤

前述の37号告示の基準に照らすと、偽装請負にあたる可能性がある状態です。現場では「チームの一員として普通に指示を受けている」ことも多く、本人は気づきにくいところです。それでも、トラブルが起きたときに誰が責任を持つのかが曖昧になり、守られません。

確認方法: 残業の申請先、休暇の承認者、日々のタスクを割り振る人が、自社の人か常駐先の人かを書き出す。

C-2スキルシートの経験年数や担当工程を水増しするよう指示される赤

経験を偽って参画させるのは、常駐先との信頼を壊す行為で、困るのは現場で能力差を埋める本人です。この指示を出す会社は、エンジニアを「単価のつく枠」として見ていると考えてよいでしょう。

C-3待機(案件が切れた期間)の給与を一方的に減らされる赤

案件が見つからないのは会社側の事情です。会社が休ませる場合、労働基準法26条により、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要です。出社や自社での研修を命じられているなら、それは労働時間なので通常の給与が発生します。「待機中は基本給の5割」など、法を下回る運用をしている会社は少なくありません。

C-4自社の上司・営業と月に1回も話さない/自分が何次請けかわからない黄

帰属意識の問題に見えて、実は情報の問題です。商流の深さ(A-3の還元率に直結)も、次の案件の見通しも、自社と話さなければわかりません。面談を求めても実施されない場合は、赤に近い黄として扱ってください。

判定のしかた

赤が1つ以上 転職を前提に、今月から準備を始める赤の項目は、個人の交渉ではまず変わりません。証拠(チャット、メール、給与明細)を残しつつ、退職時期から逆算して動きます。違法の疑いがあるものは、労働基準監督署や都道府県労働局に相談できます。
黄が3つ以上 6か月以内に動けるように準備するまず自社に、単価の開示、現場の変更、評価基準の説明を求めます。2回の面談で何も変わらなければ、転職を進めます。
黄が2つ以下 今の会社で交渉する余地があるSESの中では比較的まともな環境です。足りない部分(B-2の判断経験など)を現場で取りにいき、職務経歴書の材料をためてから動いても遅くありません。

SECTION 03還元率を自分で計算する|「社保込み」と「社保抜き」の差

判定表のA-3を計算します。SES業界でよく聞く「還元率」には統一された定義がなく、分子に会社負担の社会保険料を含めるかどうかが会社ごとに違います。この違いだけで、数字が10ポイント近く変わります。

// 社保抜き(本人の額面だけで見る)
還元率 = 年収(額面・賞与込み) ÷ (月単価 × 12)

// 社保込み(会社の人件費として見る)
還元率 = (年収 + 会社負担の社会保険料) ÷ (月単価 × 12)
// 会社負担分は年収の約15〜16%(2026年度・東京・40歳未満の目安)

会社負担分の内訳は、協会けんぽ東京の健康保険(9.85%の半分)、子ども・子育て支援金(0.23%の半分)、厚生年金(18.3%の半分)、雇用保険(会社負担8.5/1000)、子ども・子育て拠出金(0.36%、会社のみ)です。合計で約15.4%、これに労災保険を加えると約15〜16%になります。

計算例:単価70万円・年収420万円の場合

項目金額計算
年間の売上(単価×12)840万円70万円 × 12
本人の年収(額面)420万円—
会社負担の社会保険料約65万円420万円 × 約15.5%
還元率(社保抜き)50%420 ÷ 840
還元率(社保込み)約58%485 ÷ 840

同じ条件でも、ある会社は「還元率50%」、別の会社は「58%」と表現できます。逆に、求人で「還元率80%」とあっても、それが社保込みなら、単価70万円の場合の本人の額面は約580万円(840万円×80%÷1.155)です。「社保抜きで80%(672万円)」と比べると、約90万円違います。

単価70万円のときに還元率80%を社保込みで計算した場合と社保抜きで計算した場合の本人年収の差を比べた図
「還元率80%」の中身は定義しだいで約90万円変わる(単価70万円・会社負担15.5%で試算)

単価がわからない場合の参考値として、エン株式会社の「フリーランススタート」の集計では、2026年7月度のフリーランスエンジニア案件の月額平均単価は78.4万円(435,426件)です。ただしこれはフリーランス向け案件の平均で、エージェントのマージンを引いた後の金額です。職種・スキルによる幅も大きく、あなたの単価そのものではありません。「単価が開示されないので、市場の平均から推定するしかない」という状況こそが、A-1の黄信号です。

なお、手取りベースで会社員とフリーランスを比べたい場合は、フリーランスと会社員エンジニアの年収比較(手取りが並ぶ単価の計算)で、社保と税を含めた損益分岐を計算しています。

SECTION 04「まだ動かないほうがいい」ケースもある

サインが出ていても、タイミングによっては今の現場にとどまったほうが有利なことがあります。

反対に、赤信号がある場合はタイミングを待つ理由がありません。待機中の減給や経歴の水増しは、時間が経つほど本人の不利が大きくなります。

SECTION 05転職先の選び方|商流のどこに移るかで決める

SESからの転職先は、大きく5つに分かれます。判断の軸は「商流のどこに移るか」です。上流に行くほど、エンド企業の事業に近い判断ができますが、選考では「自分で考えて決めた経験」がより厳しく問われます。

SESからの転職先5種類を、商流の位置と選考で問われる経験の2軸で配置したマップ
転職先5タイプの位置関係。上に行くほどエンド企業に近い
転職先商流の位置向いている人(どの信号が多いか)選考で見られる点
単価を開示する別のSES同じ〜一段上A軸(お金)の黄が中心で、働き方そのものは嫌いではない人現場での評価、スキルシートの精度
SIerの元請(プライム)一次〜元請B軸(工程)の黄が多く、要件定義・設計に上がりたい人顧客折衝、設計書を書いた経験、資格
受託・自社開発(Web系)エンド企業に近い/自社がエンドB-3(技術スタック)の黄があり、モダンな開発をしたい人コードと設計判断の説明、コーディングテスト
社内SE(事業会社)発注側C軸の扱いに疲れ、一つの組織に腰を据えたい人業務理解、ベンダーコントロールの経験
フリーランスエージェント経由で二次〜三次A軸の黄が強く、すでに単価がつくスキルがある人即戦力性(教育されない前提)

それぞれの詳細は、既存の記事で掘り下げています。

SES経験を「判断の経験」に言い換える

SES出身者が書類で落ちる典型は、職務経歴書が「現場A:Java、テスト/現場B:Java、詳細設計」のような現場の羅列になっているケースです。採用側が知りたいのは、それぞれの現場で何を任され、何を判断したかです。現場が変わったことは、見方を変えれば「短期間で新しいドメインとチームに適応した経験が複数ある」という強みになります。各現場について、次の3行が書けるかを確認してください。

  1. 課題: その現場で何が問題になっていたか(性能、品質、納期、属人化など)
  2. 自分の判断: 自分が提案・選択したこと。小さくてもよい(テストの自動化範囲、ログの設計など)
  3. 結果: 数字で示せるもの(工数の削減、障害件数の減少、レビュー指摘の減少など)

SESでは、転職時のリファレンスチェックで推薦者を頼みにくいという問題もあります。常駐先の人に頼みにくく、自社の人は仕事ぶりを見ていないからです。この対策はエンジニアのリファレンスチェック対策(SES・フルリモートで詰む構造)にまとめています。

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SECTION 06SESを辞めるときの進め方|契約更新から逆算する

SES特有の注意点は、退職の話をする相手は常駐先ではなく、雇用主である自社だということです。常駐先と自社の間には準委任契約があり、多くは1〜3か月単位で更新されます。この更新のタイミングを無視して辞めると、引き継ぎで揉めやすくなります。

  1. 契約の更新月を確認する: 自社の営業に、今の現場の契約期間を確認します(「次の更新はいつか」と聞けば、怪しまれずに済みます)。
  2. 転職活動は在職中に進める: 内定の時期を、契約更新の1〜2か月前に合わせるのが理想です。転職市場の季節性についてはエンジニア転職のタイミング(求人倍率7年分の分析)で解説しています。
  3. 自社の上司(または営業)に伝える: 民法上は期間の定めのない雇用なら2週間前の申し出で退職できます。ただ、就業規則で1か月前などと定めている会社が多いので、まず確認してください。自社は常駐先との契約を終了するか後任を調整するので、更新月の前に伝えるのが円満に辞めるコツです。
  4. 常駐先への挨拶は自社と相談してから: 常駐先に先に話すと、自社の営業が契約上の調整をする前に情報が伝わってしまいます。

引き止められたときの対応や、退職願と退職届の使い分けはエンジニアの退職交渉の進め方を参考にしてください。

ちなみに転職市場は、エンジニアにとって追い風が続いています。doda の転職求人倍率は、2026年8月で全体2.86倍、エンジニア(IT・通信)は12.04倍です。ただしこれは求人の数の話で、SES出身者がどの企業にも通るという意味ではありません。上の「判断の経験」を準備しておく必要があります。

よくある質問

SESは転職しにくいですか?
SES出身だから不利、ということはありません。不利になるのは「現場と使った技術の羅列」しか職務経歴書に書けない場合です。現場ごとに課題・自分の判断・結果を書ければ、短期間で複数のドメインに適応した経験として評価されます。ただし実務1年未満でテストや運用だけを担当してきた場合は、書類通過が難しくなりやすいので、上流の工程を1つ経験してから動くほうが有利です。
SESで退職するときは誰に言うべきですか?
雇用主である自社の上司(会社によっては担当営業)に伝えます。常駐先は契約の相手先であって、雇用主ではありません。常駐先の担当者に先に話すと、自社と常駐先の間の契約調整が後手に回り、引き継ぎで揉める原因になります。常駐先への報告は、自社と時期を合わせて行います。
常駐先の社員から毎日直接指示を受けています。これは違法ですか?
厚生労働省の37号告示の基準では、業務の進め方の指示や、労働時間・残業の管理を受託した会社が自ら行うことが求められています。常駐先がこれらを直接行っている場合、偽装請負と判断される可能性があります。ただし、仕様の確認や技術的な打ち合わせのような情報のやりとりがすべて問題になるわけではありません。疑わしい場合は、指示・勤怠管理の実態を記録したうえで、都道府県労働局の需給調整事業部門などに相談できます。
待機期間中に給料を減らされました。仕方ないのでしょうか?
案件がないのは会社側の事情なので、会社が休ませる場合は労働基準法26条により平均賃金の60%以上の休業手当が必要です。出社や自社での研修・自習を命じられているなら、それは労働時間なので通常の賃金が発生します。就業規則や雇用契約で待機中の賃金がどう決められているかを確認し、法を下回っていれば労働基準監督署に相談できます。
転職をやめたほうがいいのはどんな人ですか?
この記事の判定表で黄が2つ以下で、理由が人間関係だけの人は、まず現場の変更を自社に相談するほうが早く解決することがあります。また、実務経験が1年未満で職務経歴書に書ける判断経験がまだない人は、半年ほど現場で材料をためてから動いたほうが、選べる転職先が増えます。

まとめ|赤は「待たない」、黄は「数えて交渉する」

自分の市場価値を数字で確認したい場合は、エンジニアの市場価値診断サービス比較で、診断が何のデータで算出されているかを比べています。

参考・出典

福朗
福朗

フリーランスAIエンジニア。AIパイプライン開発と技術キャリアについて発信しています。

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